大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(ラ)83号 決定 1985年4月04日

抗告人 伊熊美喜夫

右代理人弁護士 宮下勇

相手方 佐藤忠義

主文

原決定中、別紙登記目録二、五記載の登記にかかる抗告人の申請を却下した部分を取り消す。

相手方は抗告人が金二〇万円の保証を立てたときは別紙不動産目録記載の各不動産についてなされた別紙登記目録二、五記載の仮登記上の権利につき譲渡その他一切の処分をしてはならない。

理由

一  ≪省略≫

二  一件記録によると、抗告人は別紙不動産目録記載の各不動産(以下「本件土地」という。)を所有していること、同土地には登記簿上申請外清水幸男のために昭和五八年七月一二日代物弁済を原因とする別紙登記目録一記載の登記(以下、同目録記載の各登記については「本件一の登記」のように表示する。)及び同日付賃借権設定を原因とする本件四の登記が経由されているほか、相手方のために本件二、三、五、六の各登記が経由されていること、本件二、五の各登記はそれぞれ本件一、四の各登記上の権利について条件付で移転を受けた仮登記であり、本件三、六の各登記はそれぞれ本件一、四の登記上の権利について移転を受けた旨の移転登記であるが、本件三、六の各登記は本件二、五の各登記(仮登記)に基づく本登記ではなく、右各仮登記とは別個に本件一、四の各登記から直接にされた権利移転の登記となつていること、抗告人は清水幸男との間で、前記のような登記原因に沿う契約をしたことはないばかりか、同人のために本件一、四の各登記をすることを承諾したこともなく、その登記手続は抗告人が昭和五八年七月上旬ころ柳沢敬造から依頼されて手形の裏書をした際に、同人に求められるまま交付した委任状及び印鑑証明書を利用して行われたものであることが一応認められ、そうすると、抗告人は相手方に対して本件各登記の抹消登記手続を求めることができるということができる。

ところで、相手方の本件二及び五の登記上の権利は相手方において本件三及び六の各登記を経由したことによつて民法一七九条二項の類推適用によつて実体法的には消滅したと解されないわけではない。しかしながら、登記簿上本件二、五の各登記が残存する以上は、その登記名義を第三者に移転することも可能である。(なお、仮に本件三又は六の各登記が何らかの原因で抹消された場合には、本件二又は五の登記上の権利が実体法的にも復活し、抹消されていなかつた右登記が完全に効力を回復することもありうる。)。そして、不動産登記法一四六条一項の「利害ノ関係ヲ有スル第三者」か否かはもつぱら登記簿の記載から判断すべきであると解されることからすると、抗告人が本件一、三の登記及び本件四、六の登記を抹消するためには、相手方に対して右各登記の抹消登記手続を求めるだけでは足りず、右登記の抹消について利害関係を有する本件二、五の登記の名義人の承諾を要するものと解されるのであるから、抗告人は、右登記名義人が転々と変わるのを防止し当事者を恒定するために相手方に対して右登記上の権利の処分の禁止を求める必要性があるものと認められる。

三  そうすると、抗告人の本件仮処分申請はすべて認容すべきであるところ、原決定は本件二、五の登記にかかる仮処分申請を却下した点において不当であるから、原決定を右の限度で取り消し

(裁判長裁判官 鈴木重信 裁判官 加茂紀久男 片桐春一)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例